離任のご挨拶                       2007.4 安田 倫子

離任のご挨拶
拝啓 四月、新年度となりました。皆さまには、また、新しいお気持ちで仕事に取り掛かられ、お忙しい毎日のことと拝察いたします。
三月末を持ちまして、武蔵野女子学院中高等学校を退職いたしました。(昭和四十六年四月より、延べ三十六年間、書道、国語の非常勤講師としてご縁をいただきました)。
このように永きに亘って勤めさせて戴いたことを心から学校に感謝しています。
また、在職中、皆さまには、一方ならぬお世話になりましてありがとうございました。

私は母校である武蔵野女子学院が好きで、生徒、職員はじめ先生方が好きで、菩提樹をはじめとして、沙羅双樹(夏椿)、黒松、公孫樹、梅桜、月桂樹などの樹々が好きで、図書館が好きで、なかなか離れがたく、学生時代を含めますと四十年もの長い間、月曜日から金曜日までほぼ毎日通い続けたのでした。(第三日曜日含む)
武蔵野女子学院は私の人生のほとんどの時間を過ごした大切な場所であったのです。
雑用もなく授業のみに打ち込める非常勤講師としての勤めは、いつも怠り無く、生徒にも最後まで毅然とした態度、フェアな指導を心がけ、「授業命」の毎日でありました。
例えば、始、終業時は、椅子から一歩左に立ってネクタイを締めなおし、姿勢を正し、相手の顔を見てから頭を下げること、「ごきげんよう」の声掛けをすること、を徹底しました。
親しき中にも礼儀あり。日頃から、使っていない言葉はいざと言うときに出てこないのです。年頃の娘には「ごきげんよう」は心を養う必須の日本語のひとつなのです。
また、母校に対する誇りを持たせることも大切だと考え、制服の謂れも他の先生方と同じように「ワイシャツの白は清潔を、紺のブレザーは若さを、臙脂色のネクタイは明治の明星派与謝野晶子、鉄幹の浪漫派の象徴であった恋の色をあらわしていること。校章はお釈迦様が悟りを開かれたときのご縁である菩提樹と明けの明星を表現していること」を新しい担当クラスには必ず解説して来ました。

今、武蔵野女子学院を離れるに際しまして、改めて生徒にもお別れを述べるチャンスの無かった非常勤講師としての立場を振り返っておりますが、仕事に悔いはありません。
最後に、本校で仏様のご縁を戴いて私が身につけて来ることができた様に、皆さまにも「薫習(くんじゅう)」の言葉をお贈りし、ご挨拶といたします。

敬具
平成十九年四月 元 国語科講師 安田倫子

<エッセイ目次へ>